レベル:上級|記載の情報は2026年10月18日時点のものです。
スマートコントラクト(ブロックチェーン上で自動的に実行されるプログラム)は、決められた条件がそろえば、人の手を介さずに処理を進めます。ただし、スマートコントラクトは、ブロックチェーンの外にある情報を自分で取りに行くことができません。
たとえば「担保の価値が借入額を下回ったら清算する」という処理には、担保になっている暗号資産の今の価格が必要です。この「外の情報」をブロックチェーンに届けるのが、オラクルです。
この記事では、次の順に説明します。
- オラクルとは何か、「オラクル問題」とは
- オラクルの種類と仕組み
- オラクルをめぐる主な事件
- 事件のパターンと対策
- トークン化での使われ方と、利用者として確かめたいこと
この記事は、DeFi(分散型金融)とはの内容を前提にしています。特定の暗号資産をすすめるものではありません。
オラクルとは
イーサリアムの公式の開発者向け文書は、オラクルを「ブロックチェーンの外のデータをスマートコントラクトに届けるアプリケーション」と説明しています。
オラクルが届ける情報の例は、次のようなものです。
- 暗号資産や株、為替の価格
- スポーツの試合結果や天候
- 投資信託の基準価額や、裏付け資産の残高
オラクル問題
スマートコントラクトがどれだけ正確に作られていても、届く情報がまちがっていれば、まちがった処理が自動で実行されます。そして、ブロックチェーン上の処理は、後から取り消すことが難しいのが普通です。
国際決済銀行(BIS)は2023年の報告で、この課題を「オラクル問題」として取り上げました。情報の提供を多くの参加者に分散させれば信頼性は上がる一方、合意に手間がかかり効率が落ちる。逆に特定の提供者に頼れば効率はよいが、その提供者を信頼する必要が生まれる、という板挟みです。
オラクルの種類と仕組み

中央集権型と分散型
| 中央集権型 | 分散型 | |
|---|---|---|
| 情報の提供者 | 1つの事業者 | 複数の独立した参加者(ノード) |
| 正しさの確保 | 提供者を信頼するしかない | 複数の値を集め、中央値などで1つにまとめる。不正な参加者に罰則を科す仕組みもある |
| 弱点 | 提供者の誤りや停止がそのまま影響する | 仕組みが複雑になり、更新のコストや時間がかかる |
更新のしかた
- プッシュ型:オラクルの運営側が、価格が一定以上動いたとき(乖離のしきい値)や、一定の時間がたったとき(ハートビート)に、ブロックチェーン上の価格を更新する
- プル型:利用者が取引をするときに、署名された最新の価格を同じ取引の中で取り込む
- DEXの価格を使う方法:分散型取引所の取引から価格を求める。一時点の価格ではなく、一定期間の平均(TWAP)を使うことで、操作されにくくする
代表的なオラクルの仕組みには、Chainlink、Pyth、Chronicleのような専用のネットワークや、分散型取引所Uniswapの価格記録を使う方法などがあります。仕組みはそれぞれの公式文書で公開されています。
オラクルをめぐる主な事件
| 時期 | サービス | 何が起きたか |
|---|---|---|
| 2019年6月 | Synthetix | 外部のデータ提供元が韓国ウォンの価格を約1,000倍と誤って伝えた。稼働していた情報源が2つだけで、その平均を使っていたため、自動売買のプログラムが1時間足らずで10億ドルを超える含み益を得た。取引は後に巻き戻された |
| 2020年2月 | bZx | 短時間だけ資金を借りる「フラッシュローン」でDEXの価格を動かし、2回の攻撃で合計約100万ドル相当を得た。2回目は、価格の参照に使っていたDEXの価格を操作したもの |
| 2020年10月 | Harvest Finance | フラッシュローンで、価格の基準にしていたDEXのプールを操作され、約3,380万ドルの損失 |
| 2020年11月 | Compound | 価格の参照先にしていた取引所で、ステーブルコインのDAIが一時約1.30ドルに急騰。約8,900万ドル分の担保が清算された |
| 2022年4月 | Inverse Finance | 価格の基準にしていたDEXのプールを操作され、約1,560万ドルの損失 |
| 2022年10月 | Mango Markets | 取引量の少ないトークンの価格を約30分で13倍超に吊り上げ、その評価額を担保に1億1,000万ドルを超える資産を引き出した |
| 2026年2月 | Moonwell | 価格の設定に誤りがあり、約2,200ドルの資産を約1.12ドルと評価。約178万ドルの不良債権が生じた |
Mango Marketsの件では、実行者が2024年4月に陪審で有罪とされましたが、2025年5月に判事が評決を取り消しました。法的な評価が分かれるほど、新しい種類の事件だったといえます。
ブロックチェーン分析会社のChainalysisによると、2022年には41件のオラクルの価格操作で、合計4億320万ドルが失われました。
事件のパターン
| パターン | 例 | 主な原因 |
|---|---|---|
| 情報源の誤り・不足 | Synthetix | 情報源が少なく、異常な値を除けなかった |
| 流動性の低い市場の操作 | bZx、Harvest、Inverse、Mango | 少ない資金で動く価格を、そのまま基準にしていた |
| 市場の一時的な異常値 | Compound | 1つの取引所の急な値動きが、そのまま反映された |
| 設定のミス | Moonwell | 価格の計算式の設定を誤った |
主な対策

- 複数の情報源と中央値:1つの情報源の異常値に引きずられないようにする
- 一定期間の平均(TWAP):一瞬の価格操作の影響を小さくする
- 更新のルール:価格が一定以上動いたとき、一定時間がたったときに確実に更新する
- 異常の検知(サーキットブレーカー):古い価格、急すぎる変化、想定の範囲外の価格を検知して止める
- 変更の遅延(タイムロック):設定の変更に一定の待ち時間を設け、不正な変更を防ぐ。ただし、誤りを直すのにも時間がかかるという裏面がある
- 担保にできる資産の制限:流動性の低い資産を担保にしない、担保の上限を決める
トークン化での使われ方
オラクルは、株や債券、ファンドをブロックチェーンに載せる「トークン化」でも欠かせない仕組みになりつつあります。
- 国際送金ネットワークのSwiftは2023年8月、十数の金融機関と、異なるブロックチェーン間でトークン化資産を移す実験の結果を公表しました
- 米国の証券決済機関DTCCは2024年5月、投資信託の基準価額のデータをブロックチェーンに届ける試験の報告をまとめています
トークン化の全体像は株式のトークン化とセキュリティトークンとはで説明しています。
利用者として確かめたいこと
DeFiのサービスを使ったり、トークン化された資産を持ったりする場合は、次の点を確かめておくと、リスクを見積もりやすくなります。
- 価格はどこから来ているか:情報源の数、更新のルール、DEXの価格を使っている場合は平均の期間
- 担保になる資産の流動性:取引量の少ないトークンが担保に使われていないか
- 過去の事件と対応:事件があった場合に、原因の公表や補償、再発防止がどう行われたか
- 監査と運営:プログラムの監査の有無、設定を変える権限をだれが持っているか
DeFiのサービスは、金融庁に登録された暗号資産交換業者ではなく、日本の利用者保護の仕組みは適用されません。オラクルの不具合や価格操作で損失が出ても、補償されないのが普通です。当サイトはDeFiの利用をすすめるものではありません。
よくある質問
国内の取引所で売買するだけでも、オラクルのリスクはありますか
国内の取引所の売買価格は、その取引所の板や販売所の提示価格で決まるため、この記事で取り上げたようなオラクルのリスクを直接負うことは基本的にありません。オラクルが問題になるのは、主にDeFiのサービスを使う場合です。
フラッシュローンとは何ですか
担保なしで資金を借り、同じ取引の中で返済する仕組みです。返済できなければ取引全体が取り消されます。正当な使い道もありますが、多額の資金で一時的に価格を動かす攻撃に使われた例があります。
オラクルの暗号資産は値上がりしますか
当サイトは特定の暗号資産の値動きを予想したり、購入をすすめたりしません。仕組みが重要であることと、そのトークンの値段が上がることは別の話です。銘柄の調べ方は銘柄の中身を調べる5つの視点をご覧ください。
まとめ
- オラクルは、ブロックチェーンの外の情報をスマートコントラクトに届ける仕組み。届く情報がまちがえば、まちがった処理が自動で実行される
- 過去の事件の多くは、少ない情報源、流動性の低い市場の価格操作、設定ミスが原因だった
- DeFiを使う場合は、価格の出どころ、担保の流動性、過去の対応、監査と運営の体制を確かめる
出典
- ethereum.org「Oracles」
- 国際決済銀行(BIS)「BIS Bulletin No.76:The oracle problem and the future of DeFi」(2023年9月)
- IOSCO「Final Report with Policy Recommendations for DeFi」(2023年12月)
- Pyth「Pull Updates」
- Chainlink「Deviation Thresholds」
- Chainlink「Selecting Data Feeds」
- Chronicle「Understanding Chronicle」
- Uniswap「Oracle」
- Synthetix「Response to Oracle Incident」(2019年6月)
- Hacking, Distributed「Attacking the DeFi Ecosystem with Flash Loans」(2020年3月)
- Harvest Finance「Flashloan Economic Attack Post-Mortem」(2020年10月)
- Decrypt「Oracle exploit sees $100 million liquidated on Compound」(2020年11月)
- rekt.news「Inverse Finance」(2022年4月)
- 米商品先物取引委員会(CFTC)「Mango Marketsの件」
- TRM Labs「Federal judge overturns convictions in Mango Markets case」(2025年5月)
- Moonwell Forum「MIP-X43 cbETH Oracle Incident Summary」(2026年2月)
- Chainalysis「Oracle Manipulation Attacks Are Rising」(2023年3月)
- Swift「Swift unlocks potential of tokenisation with successful blockchain experiments」(2023年8月31日)
- DTCC「Smart NAV Pilot Report」(2024年5月)
- 金融庁「分散型金融システムに関する調査研究」(委託調査、2023年6月)
暗号資産は法定通貨ではなく、価格の変動により損失が生じることがあります。本記事は情報の提供を目的としており、特定の暗号資産の購入や取引の勧誘を目的とするものではありません。取引の判断は、ご自身の責任で行ってください。
