レベル:中級|記載の情報は2026年10月18日時点のものです。
暗号資産では、「上昇相場だったのに、自分は損をした」ということがよく起こります。原因は銘柄選びではなく、買うタイミングと売るタイミングにあることが少なくありません。そして、そのタイミングを狂わせるのは、多くの場合、人間の心理です。
この記事では、投資の判断をゆがめる代表的な心理と、それに流されないための具体的な対策を説明します。
上昇相場でも損をする仕組み
まず、数字で例を見てみます。1年で値段が2倍になった暗号資産でも、途中で大きく上下していれば、買うタイミングと売るタイミングによっては損をします。
| 時期 | 価格の動き | ある人の行動 |
|---|---|---|
| 1〜3月 | 100→180(+80%) | 上がり続けるのを見て、180で買う |
| 4〜5月 | 180→130(−28%) | 不安になり、130で売る(−28%) |
| 6〜8月 | 130→220(+69%) | また上がり始めたので、220で買う |
| 9〜10月 | 220→170(−23%) | 怖くなって、170で売る(−23%) |
| 11〜12月 | 170→200(+18%) | 様子を見ているうちに年が終わる |
※説明のための架空の数字です。
価格は1年で100から200に上がりましたが、この人は2回とも高値で買って安値で売ったため、資産を大きく減らしています。最初に買って持ち続けていれば、結果は違っていました。
判断をゆがめる4つの心理

1. FOMO(取り残される不安)
FOMO(Fear Of Missing Out)は、「自分だけが乗り遅れている」という不安です。SNSで「◯倍になった」という話を見たり、価格が急に上がったりすると、よく調べないまま高値で買ってしまいます。
2. 損失回避
人は、同じ金額でも、得をする喜びより、損をする痛みを大きく感じる傾向があります。行動経済学の「プロスペクト理論」で知られる考え方です。この傾向は、二つの逆向きの行動につながります。
- 含み損を確定したくなくて、下がり続ける銘柄を売れない
- 少しの利益で早く確定したくなり、その後の上昇を逃す
金融庁の金融研究センターの論文でも、個人投資家に見られるこの傾向(ディスポジション効果)が取り上げられています。
3. 群集心理(ハーディング)
周りの人と同じ行動をとると安心する心理です。みんなが買っているときに買い、みんなが売っているときに売ることで、高値づかみや安値での投げ売りにつながります。日本銀行が事務局を務める金融広報中央委員会の資料でも、群集行動とバブルの関係が説明されています。
4. 直近の値動きへの過剰反応
直前の値動きが、この先も続くように感じる心理です。上がった直後は「まだ上がる」、下がった直後は「もっと下がる」と考えがちです。
国際決済銀行(BIS)の分析では、2022年のTerraやFTXの破綻の際、大口の投資家が売る一方で、個人は買い向かっていたことが示されています。値動きの大きい局面ほど、個人は不利な立場に置かれやすいと考えておく必要があります。
感情に流されないための5つの対策

対策1:買う前に「売る条件」を書いておく
買う理由と一緒に、「どうなったら売るか」を書き残しておきます。「◯%下がったら」「目標額に達したら」「買った理由がなくなったら」など、条件は具体的にします。売り方の考え方は利益確定と出口のルールで説明しています。
対策2:金額の上限を先に決める
損失に耐えられる金額の範囲で持っていれば、値下がりしても慌てにくくなります。計算方法は暗号資産は資産の何%まで?をご覧ください。
対策3:買う時期を分ける
一度に買わず、時期を分けて買うと、「いつ買うか」を毎回悩む必要がなくなります。毎月決まった日に決まった額を買うつみたては、この方法を仕組みにしたものです。
対策4:注文で自動化する
「この値段まで下がったら売る」という注文を先に出しておけば、その場の感情に左右されにくくなります。くわしくは逆指値(ストップ)の使い方と限界で説明しています。
対策5:情報との距離をとる
- 価格の通知を切る、アプリを開く回数を決める
- SNSの「◯倍」「爆上げ」といった投稿から距離をとる
- 大きく動いた日は、売買を一晩待ってから決める
自分の傾向を知るための記録
売買のたびに、次の3つを簡単に記録しておくと、自分の心理の癖が見えてきます。
- 売買した日時、値段、数量
- そのときの理由(「SNSで見た」「怖くなった」なども正直に)
- 結果と、振り返り
この記録は、確定申告の計算にも役立ちます。くわしくは暗号資産の確定申告のやり方をご覧ください。
よくある質問
下がったときに買い増すのは良いことですか
計画どおりの金額の範囲で、時期を分けて買うのであれば、一つの方法です。ただし、「取り返したい」という気持ちで予定外の金額を入れるのは、損失回避の心理による典型的な失敗です。
テクニカル分析を学べば感情に左右されなくなりますか
分析の手法は、判断の根拠を持つ助けにはなります。ただし、どの手法も将来の値動きを当てるものではありません。手法を学んでも、金額の上限と売る条件を決めておくことが前提になります。
長く持ち続ければ必ず報われますか
いいえ。長く持っても値下がりしたまま回復しない暗号資産もあります。過去の下落と回復の実例は過去の暴落はどれくらい深かったかで紹介しています。
まとめ
- 上昇相場でも、高値で買って安値で売れば損をする。原因の多くは心理にある
- FOMO、損失回避、群集心理、直近の値動きへの過剰反応が、判断をゆがめる代表的な心理
- 売る条件と金額の上限を先に決め、買う時期を分け、注文と記録で感情を仕組みに置き換える
出典
- 金融広報中央委員会「行動経済学の金融教育への応用の重要性」(2012年3月)
- 金融庁 金融研究センター「ディスカッションペーパー DP2015-3」
- 日本取引所グループ「JPXワーキング・ペーパー Vol.49」(2025年9月)
- 国際決済銀行(BIS)「BIS Bulletin No.69:Crypto shocks and retail losses」(2023年2月)
- 金融庁「NISA特設ウェブサイト:資産形成の基本」
暗号資産は法定通貨ではなく、価格の変動により損失が生じることがあります。本記事は情報の提供を目的としており、特定の暗号資産の購入や取引の勧誘を目的とするものではありません。取引の判断は、ご自身の責任で行ってください。
